エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 駅を3つほど過ぎると、乗客が電車から降りはじめ、少し混雑が緩和された。

 密着していた二階堂さんの体が離れる。
 私は態勢を整え、ようやく彼のほうに向き直ることができた。

「ありがとうございました」

 お礼を言って、背の高い彼を見上げる。
 すると二階堂さんは、極上の笑顔を惜しげもなく向けてきた。

「こっちこそ、くっついてしまってすみませんでした。もっとしっかり守ってあげるはずだったんだけど、予想以上に混雑してて……」

 そういえば、ふだんは二階堂さんも自転車通勤だった。
 それが、あのトラックの事故のせいで、同じように電車に乗るはめになってしまったのだ。

「なにかイベントがあったみたいですね。最初に並んでいたときは、それほど人はいなかったんです」
「なるほど。タイミングがよかったのか悪かったのか……」

 よかったのは、和宮さんと偶然乗り合わせたことなんですけどね。
 そんなふうに、彼はほほ笑んだ。


 遠い存在だった憧れの人なのに、急に親近感がわいた。
 人の波も引いて、緊張がほぐれたせいもあるだろう。
 普段のような会話をするくらい、気持ちの余裕ができた。

「二階堂さんも、この電車だったんですね」

 机の鍵のかかった引き出しには、社員の個人情報が入ったファイルがある。
 二階堂さんのももちろんあって、手続きをするときにはいつも私が確認している。
 なのに現住所はうろ覚え。
 それ以前に、東京の電車の路線図が、いまだに把握できていない。
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