エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 次の駅に停車すると、二階堂さんは「じゃあ」と言いながらホームに降りた。

 向かい側には、ちょうど反対方向へ向かう電車が到着していた。
 二階堂さんは、電車に乗る前にもういちど振り返り、こっちに向かって右手を挙げた。
 私も笑顔で手を振り返す。

 いい人だなあ。
 それに、自転車の鍵のためにわざわざ追いかけてくるなんて、意外と行動力もあるんだな。


 残りの乗車時間、私は憂鬱どころか、とても幸福な気分だった。

 今日は、二階堂さんの意外な一面を、たくさん見ることができた。

 片えくぼの笑顔。
 自然なやさしさ。

 抱きしめられていると勘違いしてしまいそうなほど肌を密着させて、硬くて男らしい腕で、私を人ごみから守ってくれた。


 自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい、ドキドキしていた。

 目の保養だったあこがれの人が、サマータイムとともに急接近してきた。
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