エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 時計の針が、午前9時ちょうどを指した。
 けれど、青羽は姿を現さない。

(青羽ちゃん、なにやってんのよ~!)

 昨夜、「絶対に来てね! 遅刻しないように、今日は早く寝るんだよ!」とわざわざ電話をしてきた張本人が、まさかの遅刻である。


 乗る予定のバスは、エンジンを止めてバスプールで待機していた。
 発車時刻まではまだ余裕はあるが、やはり不安だ。

 列の後方に並んでいた人たちに先に乗車してもらい、私は青羽に電話をかけることにした。

 8コール目で、ようやく電話がつながる。
 ところが彼女の携帯に出たのは、青羽の恋人である千坂主任だった。

「和宮さん? ごめんなぁ。青羽、熱中症でぶっ倒れて休んでるんだ」
「熱中症!?」

 青羽は、ものすごい熱中症体質だ。

 数年前から節電対策がはじまり、現在オフィスのエアコンの設定温度は、やや高めの28℃にしてある。
 サーキュレーターも併用しているけれど、オフィスのなかにいるというのに、ときどき青羽は眩暈を起こしていた。

「連絡が遅れて申し訳ない。バレー部の連中には言ってあるから、合宿には和宮さんひとりで行ってもらえるかな」

 千坂主任にそう言われ、断ることができなかった。

「仕方ないか」

 私はひとりでバスに乗り、合宿が行われている海沿いの体育館へと向かった。
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