エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 いつものように会社の駐輪場に自転車を停める。
 すると、ふいにうしろから声をかけられた。

「おはようございます。今朝は早いんですね」

 振り返ると、そこにいたのは日に焼けた男の人だった。

 赤いスタイリッシュなマウンテンバイクをすぐ横に停め、スタンドを立てたあと、盗難防止のチェーンをタイヤに巻き付ける。
 そしてこっちに視線を向けると、浅黒い肌から真っ白い歯をのぞかせてにっこり笑った。

 肩までまくりあげられたTシャツから、ほどよく筋肉のついた二の腕が伸びている。
 綿のハーフパンツにスポーツ用のサングラス。
 テレビで見たカリフォルニアの通勤スタイルみたいだ。

 ものすごい汗をかいていて、Tシャツが体にぴたりと貼りつき、濡れた髪からはぽたぽたと汗の滴が落ちている。
 けれど、不思議なことに呼吸はひとつも乱れていない。


(誰だっけ……?)

 今日からサマータイムが始まり、出社時間が30分早くなった。
 それだけでオフィスビルの入り口をくぐっていく人たちの顔ぶれも違っている。

 けれど、あのスポーツタイプの自転車はいつも隣に停めてあったので、存在だけは知っていた。

 自転車置き場にもお気に入りのポジションがあり、私は真ん中の柱のすぐそばに、そして必ず赤いマウンテンバイクがお隣さんだった。

 ピカピカに磨き上げられたフレームは、その自転車が持ち主に大事にされていることをもの語っていた。

(この人だったんだ……)

 長身の人物を見上げるが、サングラスで隠された素顔がわからない。


 ぼんやりしているうちに、赤い自転車の主はカバンを持ってビルのなかに入っていった。

 あんなに汗びっしょりで仕事は大丈夫なのだろうかと 、ついつい余計な心配をしてしまう。

 チラリと腕時計を確認すると、出勤時間まであと10分。
 慌てて自転車のかごから荷物を取り出し、エントランスからオフィスビルのなかに入る。
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