エリート御曹司が過保護すぎるんです。
「暑いと思うから、これ」

 二階堂さんが、ヒヤリとしたものを私の頬に押し当てた。
 それは、タオルにくるまれた保冷剤だった。
 座らされた場所もだいぶ涼しいのに、過保護なほどの気の遣いようだ。

「ありがとうございます」

 顔を上げてお礼を言う。
 すると、二階堂さんが少しかがんで私の耳もとでささやいた。

「……今日は、打ち上げの時間までいられるの?」
「いえ。最終のバスで帰る予定です」
「……そっか」

 本気で残念そうにしてくれる二階堂さんはやさしい。
 私みたいな部外者にも、居心地の悪さを感じさせないように配慮してくれている。

 だから余計、ここにはいられない。

 二階堂さんがやさしすぎて勘違いしそうになるけれど、彼には紫音という恋人がいる。
 もうすぐ買い出しに行った紫音が帰ってくる。
 そうなれば、嫌でも仲の良い恋人同士の姿を見せつけられてしまう。

 自転車のうしろに乗せてもらったとき、ほんの少し、二階堂さんを独り占めしているような気持ちになった。
 自分の恋人のように空想してしまった自分がいた。

 ――友達の彼氏なのに。

 気付きたくなかった。
 自分がこれほどあさましい人間だったなんて。

 これ以上自分を嫌いにならないうちに、いますぐここから逃げ出したい。
< 46 / 80 >

この作品をシェア

pagetop