エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 コートのなかにいた社員が二階堂さんに手を振る。
 そろそろ練習が再開されるようだ。

 練習の輪に入る前に、二階堂さんはクーラーボックスから何かを取り出し私に差し出した。

「これ、預かっていてくれるかな」

 手渡されたのは、スポーツドリンクの大きなボトルだった。

「なにからなにまでありがとうございます。遠慮なくいただきます」
「え?」

 彼はきょとんとしたあと、顔を真っ赤に染めてゆく。

「い、いや、僕は構わないんだけど……」

 二階堂さんは、口もとに手をあてながらしどろもどろに答えた。

 不思議に思ってよく見ると、それは個人用の直飲みボトルだった。
 二階堂さんの名前が大きくマジックで書いてある。

 私はようやく自分の言ったことの意味に気が付き、両手で顔を覆った。

「すみませんっ! 勘違いしちゃって、つい……」

 あまりの暑さで、私の頭もやられてしまったに違いない。
 私の慌てっぷりがおかしかったのか、二階堂さんはいつもの片えくぼを見せて笑った。

「いいよ、遠慮しなくても」
「本当にすみません! あとで外の自販機で飲みもの買ってきます!」
「あはは。桃ちゃん、本当におもしろい」
「もう、からかわないでくださいっ!」

 彼は笑いながら、コートのなかに入って行った。
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