君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
結局、納得のいく演技はできないまま、監督の厳しい指導は終了した。

できていないのはわかってる。
泣いてる場合じゃない。何とかしなきゃ。
とにかく、明日の本番に向けて、出来る限りの修正はしなきゃならない。

そんな焦りが心を支配する。

「奇跡の歌声を持つ天才子役なんて言われてても、大人になるとただの人間だな」

舞台袖に引っ込むと、スタッフの小声での会話が耳に入ってくる。
これ以上は聞かない方が良いと脳が警告を告げているのに、その場を離れることができない。

「でもどうするんです?
うちの劇団って、神楽弥さんにかかってますよね?
このままだと潰れちゃいますよ」

「明日のコンテストで賞を獲得できなければ、俺たちは路頭に迷うことになるな」

「そんなー」

重いのは、気分だけじゃない。
この劇団員からのプレッシャーに耐えきれなくなれそうだ。

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