君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
私が幼い頃から所属しているミュージカル劇団は、現在集客力不足による経営危機に直面している。
どうにかお客さんを集めようと、チラシを配って呼び込みをしてみたり、地域のイベントに参加したりしてみたが、その効果はイマイチだった。

そこで一か八かのコンテストへと参加を決めた。

このコンテストは国内での注目度が高く、多くの取材陣が来場し、有名な演出家が審査に加わる。
そのため、高評価を得られると一気に露出が増える。

それは逆を言うと、不甲斐ない演技を披露しようものなら、ひどい叩かれようとなる。
こんな小さな劇団は一瞬で塵と化してしまう。

この劇団の為に何としてでも力になりたい。
でも、今の私の歌じゃ観客の心を揺さぶることはできない。

小さいころは、もっと歌えていたのにな。
いつからか、心の内にある感情は無視して、技術だけで歌っている自分がいた。
そんな自分に気が付いた瞬間、歌えなくなった。

このままだと、私のせいで劇団を潰してしまうかもしれない。

「はぁ…」

さっきからため息しか出ない。

控室に1人。
電気スタンドの灯りをつけ、台本をぱらぱらとめくる。

今更思い出すことなどない。
台詞も注意点もしっかり頭に入ってる。

なのに、どんなに台詞を繰り返しても、いまいち気持ちが共鳴しない。
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