君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
気持ちを作れない要因の一つとして、今回の役柄があった。

今まで演じてきたのは、明るく前向きな役ばかり。
壁にぶつかりながらも、少しずつ成長していく青春ストーリー。
そんな、わかりやすいキャラクターと物語。

それが私の得意とする演目だった。

でも今回はがっつり恋愛もの。

初めてのことで最初は戸惑った。
だけど少女漫画や、恋愛もののドラマをたくさん見て勉強して、なんとなく掴めたような気がした。

稽古も順調に進んでいた。
だけど稽古の終盤、突然躓きだした。
好きな人のためなら何でもできると思える感覚とか、愛のための自己犠牲とか、全く想像がつかなかったのだ。

その理由はたぶん、恋愛経験がないから。
経験がないから、自分と重ね合わせることができない。

幼い頃からミュージカル一筋で生きてきた弊害が、こんな所で出てくるとは…。
こんな難題を明日までにどうにかできるとは思えない。

「…無理だよ」

やるせなさを込めて、台本を雑に置く。

カシャン。

…ん?
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