カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
モニカと婚約を交わしてから、リュディガーには毎日気持ちの浮き立つ時間がある。
それはユーパリア城に送った女官からの電報が届く時間だ。
政務会議を終えたリュディガーは急ぎ足で執務室へと戻ろうとする。彼は会議や謁見、視察などの外出以外はほとんどの時間を執務室で過ごした。宮殿にはもちろん皇帝の居間や遊戯室、ティー・ルームなどくつろげる場所もあったのだが、謹厳な彼は執務室で過ごすことを好んだのだ。
時計の針は午後三時半。そろそろ秘書官が、受け取った電報を執務室に届けに来る頃だろう。
電報の中身は大抵あっさりとしたものだった。モニカに特に変わりはない、今日はこれを学んだ、程度の報告だ。
けれどそれでも遠い地にいる婚約者の現状が知れるのは、リュディガーにとって貴重な情報だった。そしてモニカが健やかに過ごしていることに安心した後、どうしようもない渇望に悩まされる。もっと彼女のことが知りたい、と。
ゲオゼルとチェルシオがもっと近かったなら、と思う。あるいは遠くにいる彼女のすべてを知る術があったなら。リュディガーはもどかしくてたまらない。
数ヶ月後にはモニカはゲオゼルに輿入れして、毎日この宮殿で暮らすようになるとは分かっている。けれどリュディガーにとっては離ればなれの今が、じれったくて、そして不安でたまらないのだ。
(モニカに、定期的に手紙を書くように命じるか。……いや、結婚の準備で忙しい彼女の手を煩わせることは、すべきじゃない)
自分の欲望と、モニカを気遣う葛藤で今日も頭を悩ませながら執務室へ向かっていると、廊下でエルヴィンと会った。
「おや、これは皇帝陛下。何やらお急ぎの御様子で」
エルヴィンが未だにモニカにあこがれを抱いていることを知って以来、リュディガーは彼とあまり言葉を交わしたがらなかった。彼がまた無遠慮にモニカのことを語るのも聞きたくないし、自分が感情を抑え切れなくなるのも嫌だったからだ。
特に返事をすることもなくそのまま立ち去ろうとすると、今度は下の階段から秘書官であるアルバンが上がってくるのが見えた。
「おお、陛下。今からちょうど執務室へお届けに上がろうとしていたところです」
アルバンはリュディガーの姿を見とめると、慌てたようにこちらへ向かってきた。そして恭しく電報の紙を手渡そうとする。