冷血部長のとろ甘な愛情
離れた部長は私を冷たい目で見下ろした。

しかし、見てしまうのは目ではなく、口。私は自分の口に手の甲を当て、わなわなと震えた。


「な、何するんですか?」

「うるさい口を塞いだだけだ」

「ど、どうして……」

「悪いが、もう言い合いしている時間はない。この件についてはあとで話そう」


まだ思考を元に戻せない私を置いて、部長はファイルを片手に抱えて出ていく。

時間?

首を傾げて、腕時計を見ながら、ストンと腰を下ろす。

そうか、これから会議か……って、違う!

今は部長の予定なんかどうでもいい。

塞ぐためにキス?

有り得ない! 意味不明!

なに考えているのよ、あの人。パワハラ……ううん、セクハラだ。訴えてやりたい。

でも、ものすごく腹が立つのに、なぜだか感触を思い出してしまう。柔らかくあたたかい唇の……。


「あー! もう!」


手の甲で唇をごしごし擦って、頭を抱えた。絶対、絶対許さない。

あんな横暴な男の言いなりになるもんか。

部長が退出してから10分後。ようやく冷静になり、デスクへ戻る。
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