冷血部長のとろ甘な愛情
いつものようにゆっくり出勤してくれたらいいのに。

あの歓迎会から1か月近く経っていることにいまさらながら気付いて、車内で目の前にいる部長の持つモスグリーン色の傘を見ていた。

業務上話すことはあったけれど、交わす言葉は一言、二言くらいだった。

二人だけで話すことは今日が本当に久しぶり。意識して必要以上に関わること避けていた結果だったから、今不本意ながらも満員電車でこうして密着状態なっているのは緊張する。

次の駅でまた乗る人が増えて、さらに隙間がなくなる。目の前の胸に頭を付けないよう足を踏ん張らせた。部長はつり革の棒を掴んで体を支えているが、私にはなにも掴むものがなかった。

カーブや振動でよろけないよう必死だ。天気が悪いせいかいつもよりも混んでいるし。

頭上から「なあ」と声を掛けられて、首を上に向ける。上の方は呼吸がしやすそうで、背の高い人は羨ましいなと思う。


「この状態、辛いだろ? 俺に掴まっていろよ」

「えっ?」


「ほら」と棒を掴んでいない方の腕を差し出される。その腕に掴まる?

なんで?
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