スーパーアイドル拾いました!
 間もなくして、梅田の息子夫婦が到着した…… 

 状況報告と事務手続きだけが淡々と行われる…… 


 柚奈だって、この仕事は長い。
 利用者の状態が悪化し、搬送されていく事は度々ある。
 後から、亡くなったという悲しい報せは何度も受けた。

 しかし、自分の目の前で、息を引き取ったのは梅田が初めてだ……


 梅田が家族と共に施設を出て行く姿を、柚奈はじっと見送った。



「梅田さん、あの性格だから息子さん達と上手く行ってなかったみたいで…… きっと、柚奈さんの側で、最後を迎えたかったんでしょうね?」

 岸谷と望が柚奈の側に来ていた。


「そんな…… どうして?」



 梅田を車に乗せた息子が、向きを変え柚奈の方へと歩いて来た。


「あなたが、柚奈さんでしょうか?」


「はい…… 本当にこの度は、私が付いていながら申し訳ありません」


 柚奈は深々と頭を下げた。


「よかった…… あなたが側に居て下さって……」


「えっ?」

 柚奈は意外な言葉に、梅田の息子の顔を見た。


「最近、母は大分弱って来ていて、こちらをお休みするように言ったんですが…… 柚奈さんが待っていると聞かなくて……」


「そうだったんですか……」


「あの性格ですから、家内とも上手く行かなくて…… きっと、あなたに会える事だけが楽しみだったんだと思います。あの、これ……」


 梅田の息子が、一枚のしおりを柚奈に差し出した。

「母が、ずっと大事にしていた物です。なんだか、とても大切な人から貰ったと言ってました。めずらしく、母が家内に、頭を下げて頼んだそうです…… 自分が死んだら、柚奈さんに渡して欲しいと……」


 柚奈はそのしおりを受け取ると、唇をグッと噛んで涙を堪えた。


「ありがとうございます」

 柚奈はそう言うのが精一杯だった。



「柚奈…… あんたって凄いわ」

 望みが柚奈の手をぎゅっと握った。


「大丈夫ですか?」

 岸谷が心配そうに柚奈に声を掛けた。


「はい! ご迷惑おかけして申し訳ありません」
 柚奈は頭をさげた。


 そして、きりっと顔を上げると、仕事へと戻った。



 柚奈はこの仕事に着いた時、泣かないと決めた。

 いや、真を一人で育てると決めた時に決めたのだ!


 望はそれを分かっているかのように、柚奈の背中を強く叩いた。
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