マーメイドはホテル王子に恋をする?!
そう思って対応するように、と大川主任から教わった。
どんな外見の方でも、天使だと思えばいい…と。


「はぁ?天使だと?彼奴らはどう見ても悪魔か堕天使だったろうが!」


お客様を罵倒し、更にこうまで言いのけた。


「誰でも彼でも泊まらせるからこうなるんだ。もっと客を選んで泊めろっ!」


少なくとも一元かどうかを判断できる目を持て、と言いだす。
だけど、私にはまだそんなことが出来る能力もない。


「そんなこと言われても……」


ウルウルしてくるだけで社長の思いに応える心境じゃない。
必死で泣き声を上げるのを我慢しているだけで精一杯で、他のことにまで気持ちが追い付いていかない。


「…っう…っう……」


口元の辺りに布団を引っ張り上げ、何とか泣くのを堪えようと努める。
社長はそんな私を面倒くさそうに見つめ、呆れたように息を吐いて肩を落とした。



「……悪かった」


ポン、と頭の上に手を置き、そのままポンポンと優しく触れる。
暴君のすることとは思えず、涙を浮かべたまま鼻水を吸った。


「このホテルには夏場になるとさっきみたいな奴等が大勢泊まりに来るんだろう?
その時に今日みたいなことが無いとはこれから先も言えないぞ。従業員だけでなく、お客様の身にもしものことがあったらどうするんだ。
警察沙汰になってからじゃ遅いぞ。そうなったらホテルの信用は丸潰れになる」


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