マーメイドはホテル王子に恋をする？！

冷やりとしたものが額に触れ、ビクッとして目が覚めた。
目の前には驚く人の顔があり、その背後には何処かで見たことのある景色が広がっている。


「…大丈夫か？」


心配そうな眼差しで見下ろしている人の唇が開いた。
端正な顔立ちだけれど、目ヂカラは半端なく強い。


「ーー社長？」


ぼぅっとしたまま尋ねると、見下ろしている人の表情が和らぐ。


「間一髪だったな。もう少し遅かったらヤバかった」


小さく吐息を漏らし、口元にフッ…と優しい笑みを浮かべる。
ホッとしてくる気持ちの反面、あの男達のことが気になった。


「あの……人達は…？」


手首や足首に残る生々しい力強さに体が震える。
恐怖が甦ってくる私の顔を窺うようにして、社長はこう話した。


「追い出してやった。暴行未遂事件で訴えようかと言ったら宿泊はキャンセルしたよ」


安心しろ…と囁かれ、掛けてもらっていた肌布団を握りしめる。



「…す…すみません……」


安心したら急に涙が溢れだした。
社長は涙に動揺も見せず、側に置いてあった肘掛け椅子に凭れた。


「…ったく、お前は何年このホテルのフロント業務をしているんだ。客の応対くらいもっと上手にやれよ」


本当に暴君様の仰る通りです。
今回の私の対応は適切じゃなかったと思います。



「でも…お客様は天使だから…」