好きですか? いいえ・・・。





私は戻ると、『戻る』の意味について考えた。



どっちが楽な「戻る」だろうか……。きっと前者の「戻る」の方が楽だろうと思う。でも、それだけじゃ現状は変わらない。私は一生世間から背を向けたような人生を送ることになるんじゃないか、そう思った。



でも、だからと言って、後者の「戻る」を選択するのは勇気がいる。勇気がいることだけど、もし、今というチャンスを逃したら、一生「戻れ」ないような気がした。一生「戻れ」ないのは、嫌だ。嫌だ。絶対に嫌だ……。



私は1歩を踏み出した。前へ。手すりを両手で持って、力を入れて支えて、必死に前へ踏み出した。足はガクガクしながら動いてくれた。そして、1段目を上り終えた時、さっきまで見ていた景色が少し違って見えた。



「落合くん……。私、頑張ってみる!」



私はそれから1歩、また1歩と踏み出した。チャイムが鳴った。授業の始まりのチャイムだ。それでも、私は焦らず、ゆっくり、確実に前へ、前へ、前へ踏み出した。



踊り場まで近づくと、落合くんはまた「えっさ、ほいさ。」と2階まで上った。そして、私をまた見下ろす形になった。



落合くんが遠い。いつもより遠く感じた。でも、後ろを振り返って見ると、さっき私が上っていた階段が広がっていた。1歩、1歩確実に前へ進んだ証が景色となって表れていた。



ゆっくりでも、確実に前へ進める。進んでいる。そのことに気づいた時、私は一切振り向かないで、前だけを見て、前にいる落合くんだけを見て3階まで上り切った。




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