心で叫ぶ、君のこと
うっげええええ…やっとチャイムなったぁぁ。
バタバタと休み時間をエンジョイしに駆け出す人混みをかき分け、
ポニーテールを振り子みたいに揺らしながら海央が走ってくる。
「もえーーっ。おつかれさんっ。」
いや、なんでそんな嬉しそうなの。
ほんとさ、いっつもそうだよね。
あたしの数々の失敗をコント見てるかのように楽しんでる悪魔。
ほら、言うじゃん、人の不幸はハチミツさみたいな。
「まじ地獄だったんですけどー。。」
あのあとさ、どうなったと思う?
ざっくりまとめると。
1、あたし、全く問題解けない。
2、で、黒板の前で固まる。
3、おまけにその瞬間、ポケットのスマホが鳴る。
4、先生激おこ。
5、チャイムが鳴るまでひたすら数学の問題を解かされる。
(いやそれなら1問をゆーっくり解けばいいじゃんって思うでしょ?
チッチッチ、甘いんだなぁ。
なんと教卓の目の前でやらされるのよ!
前列の人たちからも丸見えだしプラス先生の監視も入って、とてもだけどサボれる状況じゃないっていう事件。)
てなわけ。
そりゃ地獄も地獄、大地獄。
無理でしょ、だってあたし中1の数学すらちんぷんかんぷんだからね?
それだというのに!
「サイコウスイジュンモンダイだ。」
とか訳わかんないこと言ってプリントを差し出す先生の笑顔のおっそろしかったこと…。
「ほんとむり、わかんない。先生ありえない、最低、鬼!」
「だろうねぇー。あんたおバカなんていう可愛いもんじゃ、もはやなくなってきたもんねぇ。」
むかっ。
「先生があれだけ怒るのも珍しいよね〜。もえの日頃の行いが悪すぎるんだよ、きっと。」
ぐさっ。
「あーあ神様。この子の脳みそをせめて中学生レベルでもいいから良くしてくださぁい!」
ぷつっ。
「うるさっ!海央だってそんな人のこと言えるような頭じゃないくせに!」
「いやぁ聞いてよもえー。あたしこの前の数テ80いっちゃったぁー。」
「は?80だぁ〜!?」
こここいつ、何言ってんのか理解不能。
「え、そんな頭良かったっけ?え?なんなのみんな、?なんであたしを裏切るの!?」
「みんながおかしいんじゃなくてあんたがおかしいの。高校生としての自覚を持ちなさい。」
ぐっ。それを言われると…。
「はぁ。だいたいこの学校もおかしいと思うの。もえみたいな子をいくらスポーツ推薦と言えど入学させてしまうとは…。」
「みたいな子ってなにさ!ほらほらあたしはさ、頭の中身ぜんぶ運動に向かっちゃってるから。」
「んな言い訳通用するかっ。真野萌黄と城田昴はこの学年の2大バカなんだか…あっ!」
おお、何かを思いつきましたね、海央パイセン?
「昴くんに教えてもらいなよ!」
「は?」
こここいつ、何言ってんのか理解不能part2。
「だってほら、さっきめちゃむずいの解いてたじゃん?きっと勉強したんだって真面目に。はい、萌黄選手チャーンス!」
「いやなにがチャーンスなのかわかんない。」
「はい?だってカップルでしょ?ラブラブでしょ?一緒に勉強なんて王道シチュじゃん!」
なんかさぁ、突っ込むの忘れるくらいひんぱんにカップルネタぶっこむのやめてくれる?
「むりだから。さっきの昴のはたまたま!あいつが頭良くなるわけないでしょ?」
「ええ、たまたまにしては堂々としすぎじゃなかった?」
「…まあ、そりゃあたしも驚いたけど。」
その瞬間、突然視界が真っ白に。
「わっ!せんせっ!」
いつからいたのか、振り返るとプリントをぬっとあたしの目の前に突きつけた先生が。
「わっ。」
海央、わざとらしく、わっじゃないでしょ。
あたしの向かいにいたら近づいてくる先生ばっちり見えたでしょ。
あーあまたにやにやしちゃって…!
ほんとこいつめ。
もし先生ありえない、最低、鬼とか言ったの聞こえてたらあたしの通知表さらに笑えなくなるんだからね?
って、ありゃ、先生怒ってる…
もはや目に突き刺さりそうな角度までつり上がった眉毛、
白目が完全に見えるまで見開いた目、
けいれんしてるみたいにわなわなしてる唇…
顔のパーツ全体で怒りを表現している…!
「あ、あの先生…?」
「…まぁ、先生はいいんだ。お前の成績が思わしくなくても。いいんだよ。」
うわあああ、はい、怒りを通り越してもはや優しい口調になってる時ほどこの方の怖い怒り方はありません。
「あのせんせ…」
「だがしかし!!これはひどすぎる!!1問もかすってすらいない上になんだこの絵は!?それからその上に足されたmai tiithaaってなんなんだ!?」
「あ、ああ、それならマイティーチャーですよ?私の先生って意味です。ご存知ないですか?」
え、まってまってまって、なんか先生のこめかみが震えてきた、、?
っておい海央海央逃げるな!
なんで速やかにかつ滑らかにあたしの脇をすり抜けて教室から退出していくの?
え、も、もしかして噴火くる?
「真野ぉぉぉぉ!!」
「ぎゃーーー!!」
ドッカーーーーン!!!
えー、目の前に見えますのは、噴火直後の赤々と燃えた火山でございます…。
それから、人々がこちらをちらちら伺う中、あたしは先生のくどくどしたお
説教を聞かされたのでした。
ざっくりまとめると。
1、問題が一つも合っていないし、惜しくもない。
2、監視の目から奇跡的な才能を発揮して逃れ、決死の覚悟で書いた、先生の、ゴリラをモチーフにした似顔絵を消し忘れたまま提出した。
3、似顔絵の上にマイティーチャーって書きたかったのに、さっき先生が読み上げたむちゃくちゃな(らしい)スペルを披露し、英語の壊滅的さをも知らしめた。
4、付き合いが長くないと解読はほぼ不可能である数字もどきを惜しげもなく記した。
とまあこんな感じ。
うーーん、別に初めてのお説教じゃなかったけど、さすがに勉強しなきゃかも。
だいいち、あたしたぶん海央以上に昴のさっきのこと気になってるし。
って、海央…!!
ぐぬぬぬぬ、あやつめ、逃げやがってぇ…!
絶対見つけ出して問い詰めてアイスおごらせてやるんだから。
うっしゃぁ出てこい出てこい!
走り出そうと踏み出したそのとき。
どんっ。
「痛っ。」
「あ、わり。」
視界をさえぎるでかい背中。
「ったく、痛いんですけど。」
「だからわりぃっつってんだろ。」
「はいはいすいませんね。…あ、そーだ、キミ今日すごかったじゃないか昴君?」
「あ?あー数学?いやおまえこそすげぇよ。おまえ説教の回数常に学年新記録を更新し続けてるもんな。」
「うるさいわっ!てかそんなもん数えてないだろーがっ。それよりなんで問題解けたの、まさか勉強した?」
「おう、まあな。」
「は?ほんと?どうしちゃったのよ一体?」
「どうもしてねーよ。
…まあ、暇だったから?」
「暇だったって…。あ、そう。じゃあ今度教えてよ勉強。」
「お前に?無理だわ。1問解くのに日が暮れる。」
「んなわけあるか!そこまでバカじゃないし!」
「いや今さら否定すんなって。もう誰でもわかってるから、無理すんな。」
「急にわざとらしく優しくしない!」
「へいへい。」
「あ、おい逃げんなー!!」
あーあ…
ったく秒で逃げるんだから。
…ていうか、やっぱ、なんか昴おかしい。
いつも通り、と言えばそうだけど、話してる時なんか違和感がある。
暇だからって言った時、ほんの一瞬目逸らしたの、気づいたからね、昴?