【仮面の騎士王】
ケイトリンは大きく深呼吸すると、ロッソに向かい、きっぱりと告げた。


「お父様に折り入ってお願いがございます。ファビアン様との婚約の件を白紙に戻していただきたいのです」


「なっ!?」


 つい今しがたまで従順だった娘の突然の反抗に、今度はロッソが言葉を失う番だった。


「私は、今までお父様の決めた方に嫁ぐことが、私自身の幸せであり、このペンプルドン侯爵家の幸せであり、ひいては皆の幸せであると信じてまいりました」


「その通りだ。次代の王に嫁ぐのだぞ。女にとってこれ以上の幸せがどこにあるというのだ」


「いいえ、そこには誰の幸せもありません。真実の愛がないからです」


(レイフ様を好きな気持ちに気付いた以上、それを隠してファビアン様の元に嫁ぐことはできないわ)


 ケイトリンは、よどみなく言葉を口にしたが、その声はかすれていた。一度もロッソに逆らったことのない彼女にとって、父親に意見するということがどれほど勇気のいることかは、彼女の全身が細かく震えていることが証明していた。


「私、好きな方ができたのです」


「こ・・の、お前まで・・」


 ロッソのこめかみには、今にもきれそうな青筋が浮き立つ。そうなるだろうと予想していても、ケイトリンはロッソの最大級の怒りを目の当たりにして、心が押しつぶされそうだった。
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