【仮面の騎士王】
「仕方ないさ。ロッソは君の前では良い父親だったからな。ギースは君を自分と同じ目に遭わせたくなかったんだ」


 レイフの言葉を、ケイトリンは素直に受け入れることはできなかった。一つ屋根の下で暮らしながら、ギースはどんなに孤独だったろうか。


「兄の声があんなに低いなんて、びっくりしました」


 ずいぶん昔に聞いた声を思い出すことはもうできないが、女の子に間違えられるほど甲高かったことだけは覚えている。


「まぁ、あいつはもともと無口だったからな。俺も知らないうちに声変わりしてた。顔も性格も確実に俺の勝ちだが、声だけは俺といい勝負だな」


 話を茶化してレイフは微笑んだ。


「いいえ。顔も性格も兄の勝ちです。兄は、いつでも私の一番ですから」


 それがレイフの心遣いだとわかっていたので、ケイトリンは人差し指を立てて、笑顔を見せた。


「ふん。ギースはいつでも君の一番の騎士だから仕方ないな。だがな」


 そういって、レイフは歩みを止める。ケイトリンと向き合わせになると、一瞬で距離を詰めた。


 突然レイフの熱を帯びた瞳に捕えられ、ケイトリンの心臓が鼓動を速めた。


「兄としては許す。だが、男としては俺だけだ」


 レイフは、ケイトリンの頬を右手でなぞると、そのまま指先を顎に引っ掛ける。


 唇が降ってくるのを感じて、ケイトリンは自然に瞼を下した。軽く触れただけの唇は、すぐに離れる。名残惜しそうに唇を突き出すと、今度は深く合わさった。意図せず目じりから一筋涙がこぼれ、頬を伝った。


 レイフはケイトリンの頬に親指を滑らせて涙をぬぐうと、そっと唇を離して、彼女を見つめた。

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