政宗かぶれの正志くん
「とーにーかーく!人違いだから!忙しいので失礼します」


そう彼に言い放つと、掴まれた手首を力任せに横方向へブンブンと振った。


そして、勢いよく自分の方に引き寄せた。


良かった。上手く抜けれた。


解放された手首が少し赤くなっていて腹が立つ。


でも、何か言えばまた変な会話が始まってしまうかもしれない。


私はそのまま全力で走った。


スニーカー万歳。


とにかく撒かなければと、大学を出てすぐ左に曲がる。


あまり通ったことはないが、少し行くと入り組んだ住宅街に入れる。


逃走するならそういう場所がいいだろうと咄嗟に体が動いた。


右へ左へとしばらく無心で走り、右折してすぐの家と家の間に身を隠す。


駆けるような足音は聞こえてこない。


どうやら、追いかけてこなかったらしい。もしくは、撒けたか。


念のため、休憩がてらしばらくそこで身を隠すことにした。


乱れる息に、運動不足を痛感する。


しかし。


さっきの美人は一体何だったのだろうか。


見た目も発言も似たようなタイプに出会ったことはない。


全くの、ニュータイプ。


変というか、残念というか、不思議というか。


そこでふと、思い出した。


『変人遭遇注意報』


まさか…これ…か?


バイト先に来たBとCが発令していった、あの『変な人に声かけられるかもしれないけどヨロシクー』的なやつ。


ん?…バイト?


「しまった!!私、今日バイトじゃん」


思い出したものの、ただでさえギリギリだったのに現在地がイマイチよくわからない。


結果、遅刻した。


「遭遇して遭難したから遅れます」と連絡したら爆笑された。

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