政宗かぶれの正志くん
爆笑されたとはいえ、遅刻は遅刻。


「愛ちゃーん。…いや、そう凹むなよ。たかだか10分の遅刻」


空っぽのグラスを差し出しつつ励ましてくれるのは、この店の三軒隣にある雑居ビルでデザイン会社の社長をしている、綱木さん(50代バツ3チャラ男)


何を血迷ったのか私にプロポーズをして断られた過去を持つ。


特に何の罪悪感も持っていないのは、プロポーズ2日前に彼女に振られたと嘆いていた上に、プロポーズ3日後に新しい彼女が出来たから。


天性の女たらしなのか、マメなのか、暇なのか、綱木さんは一部女性に大変モテる性質だと思う。


働き始めて丁度1年経った日にバラの花束をプレゼントしてくれた。


そんな日にち、誰も覚えていなかったのに。


誕生日には行列の出来る大人気ケーキ屋のケーキを3種類。


何がすごいかって、貰い続けて数年経ったが1度も種類が被ったことがない。


嫌なことがあった日も、悲しいことがあった日も、すぐに表情から読み取りその都度欲しい言葉や嬉しい対応をしてくれる。


店長の奥さんが、「こいつ(店長)より先にアンタ(綱木さん)に会っていたら、確実に惚れて結婚してた」と真顔で話していた程に、いい人。


ただし、チャラ男。


「バレてる。笑ってたつもりなんだけどなぁ」


そう言いながらお代わりのお冷やを注ぐと、


「今日も可愛い笑顔だったよ。嫁に来るか?」


と微笑まれた。


彼女はどうした。このチャラ男。


ジトーッと睨むと「ハッハッハ」と豪快に笑う綱木さん。


その笑顔に少し癒された。

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