先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 食べ終わり、家政婦の戸倉も片付けが終わると、すぐに帰って行く。
 仕事は完璧にこなす反面、それがなんだか味気なく、ドアが閉まった音が聞こえるとセイが不憫に思えた。

「お前、こうやって食事を用意されてもいつも一人で食べてるのか?」
「まあな」

「いくらいい所に住んで、豪華でも、ちょっとそれは寂しくないのか?」
「慣れたよ。却ってその方がせいせいする」

「でも、まだ中学三年だろ。親が傍に居ないのはちょっとまずいだろ」
「そういう嶺はどうなんだよ。四六時中親と過ごしてるのか?」

 セイから質問され、俺は我に返った。
 母親と住んでるけど、夜勤がある仕事を持つ母と顔を合わせる事は一般家庭と比べたら少ない。

 よく考えれば俺も一人で家にいる事が多かった。
 でも血が繋がった親と家政婦とではまた気持ち的に違うものも感じる。
 しかし、何が良くて何が悪いか上手く説明できずに、俺は黙り込んだ。

「皆それぞれの事情があるから、一概には言えないけど、やっぱり傍に頼れる人がいるのといないとでは、精神的にまた違ってくるのかもしれない」
 ノゾミがぼそっと呟いた。
 
 セイの持つ箸の動きが止まった。
 ノゾミはさらに続けた。

「セイ君は一人でこなして、もちろん偉いし、しっかりしてると思う。でもあまり一人で暴走し過ぎてもだめだよ。そんな時は必ず助けを求めて欲しいの」
「わかってる。もう馬鹿な事はしない」

 ノゾミとセイのやり取りには重要な意味があるように、俺は入って行けなかった。
 こんな環境だとセイの精神も不安になって、闇を抱えるのが当たり前に思える。

 だが、恵まれている事にはかわりない。
 俺もまた、何に趣を置いて考えるべきなのかわからなくなり、何がいいのか悪いのか益々わからなかった。

 こんな調子でゴールデンウィークの休みの時はセイとノゾミと一緒にここで過ごし、セイも自分から頼んだ以上、弱音を吐くことなくしっかりと食らいついて来た。

 ノゾミも自分の得意な国語や英語に関しては俺に代わって優しく教え、交代してはその間自分の勉強をこなしたりと、結構ハードな中で俺たちは勉強した。
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