先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 俺たちは一緒にケーキを作る事になった。
 キッチンの戸棚をあけると、さすがケーキ屋の家というくらい、お菓子を作る道具が揃っている。

 ノゾミはボールを取ろうと背伸びし、上の棚に手を伸ばした。
 取りにくそうにしてたので、俺が後ろから取ってやった。

 この時、俺の体がノゾミの体に接近し、かなり密接したと思う。
 ノゾミはいつものように顔を赤らめていたが、俺も少しばかりドキドキしていた。

 ノゾミは俺へのケーキを作り、俺はノゾミへのケーキを作る。
 ノゾミに教えてもらいながら、見よう見真似で、横に並んで、泡だて器でかき回していた。

「先輩、そこ、もっと空気を含ますように、生地がもったりとした感じになるようにするんです」

 ケーキを作っている時のノゾミは容赦なかった。
 指示をされても、はっきり言って何をどうするのかわからない。

 結構手首が痛くてだるい。それで雑になってしまった。
 カシャカシャカシャ。
 ノゾミはリズミカルに手際よくかき回してるが、俺はいい加減だった。
 バシャバシャバシャ。

「そこは手を抜いちゃだめです。生地がきめ細かく膨らみません」
 それならこれでもか~とムキになって、全力でかき回す。

 ハンドミキサーを使えばもっと楽にできるだろうに、それをしないところに、ノゾミのこだわりがあった。
 不意に、ノゾミの手首に目が行けば、青痣が広い範囲に薄っすらとできている。

「手首なんだか痛そうだぞ」
「えっ、大丈夫です」

「あまり無理するなよ」
「先輩こそ、かなり手首が痛いんじゃないんですか」
「いや、俺も大丈夫だ」
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