先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 そしてとうとうケーキが仕上がった。
 ノゾミのイチゴのケーキは文句なく見事な出来栄えだった。

 だが俺のケーキは傾いてるわ、クリームの塗り方にムラがあるわ、一回床に落としただろうという出来栄えだった。
 それでも俺たちはニコッと微笑み合い、満足していた。

 ノゾミは店のロゴが形どられたろうそくを持ってきて、それをケーキの上に置いた。
 ケーキはダイニングテーブルの上に置かれている。
「先輩、いいですか、願い事を心に浮かべて、それから火を吹き消して下さい」
「願い事か」
 俺の願いはなんだろう。

「決まりましたか?」
「うん」

 ノゾミはマッチを取り出して火をつける。
 炎が灯り、ユラユラと揺れ出した。

 点けてすぐ消すというのも勿体ない気がするが、l’espoirの「l」の部分が細いろうそくになっていて、残りの部分はプラスチック素材でできていた。

 そのろうそくは火がともされると、そんなに持続することもなく、早く消費されるようになっていた。
 俺は、静かに吹き消す。
 白い煙がすっと立ち上り霧消していった。

「先輩の願い事が叶いますように。いつまでも幸せでありますように」

 ノゾミは感極まって目を潤わせていた。
 俺はその涙の意味に気づくのが遅すぎた──
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