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「うん。だけど、ノゾミは正しかった。俺、もう少しで取り返しのつかない事をするところだった」

 俺はもう少しで刺されていたのか。
 刺された時の事を想像し、腹を押さえた時、俺は何か違和感を抱いた。
 その時の映像が一瞬頭に流れ、赤い血のイメージが広がった。

「あっ!」
「どうした嶺?」

「俺、もしかして、一回刺されてるんじゃないのか?」
「はっ? ありえないって。俺、ノゾミに止められて、やってないって。やってたら、嶺、今死んでるだろ」

「俺が死んでる?」

 俺は考え込んだ。
 考えて、考えて、考えた。

 その結果、導いた答えは、どこかで過去が修正された可能性だ。
 そう思ったとたん、ノゾミの行動の全てが意味を成して繋がってくる。

 ノゾミはわかってた。
 わかってたから、それを正そうとして、新たな世界に作り変えた。

 それは俺が殺されないように、生き続けている世界。
 俺は本当は刺されて死んでいたんだ。

『私、とても辛くて悲しくてずっと落ち込んでたことがあったんです。その時、姉が相談に乗ってくれて、私を慰めてくれたんです。それで初めて姉の優しさに気が付きました』

 ノゾミが姉の優しさに気付いたと言ってた時のエピソードは、俺が死んだ後の事に違いない。
 だから、姉の彼氏の事もその時に知った。

 宝くじの番号も、たまたま俺とノゾミの誕生日と事件が起こった日付だったから、それで印象に残って覚えていた。

 自分が急性白血病になる事もわかってたんだ。

 そしてノゾミは事前にそれらが起こる以前にタイムリープした。
 すべてを書きかえようとして──
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