先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 その日の放課後、俺はノゾミの教室へと急いで向かった。
 俺から会いに行くことで、彼氏を強調できると思ったし、またそれがノゾミにとっても喜ばしいに違いない。

 俺がクラスメートの前に現れれば、ノゾミも優越感というものを得るだろう。
 即ち、俺たちの付き合いを見せびらかす!──という事だ。

 これもノゾミの自尊心をくすぐるだろうし、ギブアンドテイクのギブの部分になると俺は思っていた。
 良かれと思ってやったことだったが、この時また一騒動が起こってしまった。

 俺がノゾミの教室の出入り口で中を覗くと、ちょうどノゾミは立ち上がって帰ろうとしているところを、数人の友達に取り囲まれていた。

 大人しいノゾミの傍に寄ってくる友達にしてはあまりにもきつい雰囲気で、水と油のように交わらないものを感じる。

 ノゾミも派手な女生徒たちの対応にオドオドとして、動きがぎこちなくなっていた。
 俺の足はズカズカと躊躇なくそこへ向かう。

「よぉ、迎えに来た」
 気軽に挨拶すれば、ノゾミも、その周りの女子生徒たちも、突然の俺の登場に目を丸くしていた。

「天見先輩、こんにちは」
 その中で堂々とした態度で挨拶を返してくれたのは、全く知らない女の子だった。

 適当に「ああ」と返事したら、その途端に彼女は自分をアピールするように、上目づかいに俺を見つめた。

 クラスには必ずいるような派手な女子。
 ノゾミとは全く正反対だから、これは俺が原因で寄り付かれているのだとすぐに直感した。

「天見先輩、どうして叶谷さんと付き合ってるんですか」

 油断している時、その女子から単刀直入に質問され、俺は唖然としてしまう。
 すぐに気を取り直したが、ここにもノゾミを見下してる輩がいる事に辟易だった。

「あのな、そういうことあんたには関係ない」

 俺が呆れて声を出せば、目の前の女は恐れるどころか思いっきり笑顔になって喜んでいた。
 睥睨している俺の態度もお構いなしに、その女はかわいさを演じながら、しれっと言う。

「そんな答えがでるなんて、私思ってもみませんでした。てっきり『好きだから』って返ってくると思ってました。という事はまだ真剣じゃないんですね」
「えっ?」

 俺の方が意表を突かれて、戸惑った。
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