先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 付き合うという事は好きだからということであるし、それが第一に来ないというのはおかしくも取れる。

 三ヶ月の期間。
 一億円。
 これがきっかけだったとは言えない。

 その条件で俺たちは成り立ってしまった──

 そこを突かれて俺が呆然としている時、ノゾミが突然感情を露わにした。

「黒木さん、一体何が言いたいの? それものすごく不快。天見先輩はいつだって真面目に私と向き合ってくれてる。ただ干渉されるのが嫌いなだけ」

 ノゾミは、俺が馬鹿にされたと思って腹が立ったのかもしれない。

 ノゾミが真剣に立ち向かうときは、大概、俺が原因になってる。
 ノゾミもこの時は負けずに真っ向から戦おうとしていた。

 黒木と呼ばれたその女は、余裕の笑みを浮かべ、意地悪そうに目を細めてノゾミに向けた。

「別に天見先輩を責めてる訳じゃないわ。真剣じゃなかった事は天見先輩にとってよかったって事よ」
「どういう事?」

「健気な部分を強調して、女子力高いってアピールしてさ、私は叶谷さんに騙されてるのかと思って心配してただけ」

 騙す?
 二人の様子を俺は黙って見ていた。

「私、何も騙してなんかいないわ」
 ノゾミもきっぱりと答え、その態度は正々堂々としいる。

「あら、そうかしら? レスポワール……」
 黒木が意味ありげに呟き微笑する。

 レスポワール?

 日本語ではない響きのその言葉の意味がよくわからず、俺は疑問符を頭に乗せていたが、ノゾミはハッとして急に青ざめた。

 暫しの沈黙がノゾミを不利にさせ、おどおどと落ち着かなく俺を見つめた。

「やっぱり、心当たりがあるのね」
 鬼の首を取ったように、黒木の態度が益々大きくなった。

「あれは」
 そこまでノゾミは言いかけるも、その後が続かなくて息切れしたようになっていた。
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