先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「正直に言ったらどうなの。いつも天見先輩に持っていくあのお菓子は自分で作ってないって」

 黒木の言葉に、俺は反応し思わずノゾミを見つめた。
 さっきまで感情のまましっかりと自分の意見を言えていたのに、ノゾミは動揺して喘いでいた。

 おれは気を利かして、ここから去ろうとするようにもって行く。

「おい、一体何を話してるんだ。もういい加減にしろ。ほら、帰るぞ」
 俺は踵を返した。

「待って、天見先輩! これを見て下さい」
 慌てて黒木に呼び止められ、俺が振り返ると、黒木はスマホを手にして俺に向けていた。

 そこには学校の正門の前で、ノゾミが箱を持っている姿が映し出されていた。
 その前には窓が開いているワゴン車が止まっており、ノゾミは運転手と話している様子に見えた。

「一体この画像がどうしたんだ?」
「その車には『l’espoir』(レスポワール)ってロゴが入ってますよね」

 どうやらフランス語らしい綴りが車体に書かれていた。

「レスポワール? それがどうした」
 さっきから出てくるキーワードに俺は眉根を寄せた。

「それこの辺りではとても有名なケーキ屋さんの、店の名前です」
 ノゾミを追い詰めるつもりで黒木は意地悪く言う。

「有名なケーキ屋?」

「叶谷さんはケーキを先輩のところに持って行ったとき、自分で作ったとか言ってませんでした?」

 回りくどくネチネチした黒木の話し方は、真相を暴いていく快感が入り交じり、意気揚揚としている。

「えっ……」
 俺は正直何を言っていいのかわからなかった。
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