先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 ノゾミは下を向いて震えてるだけで、言い返そうとはしなかった。

 それが意味しているのは、俺に持ってきたあのお菓子は全てこのレスポワールという店から受け取ったという事を認めているということだ。

 ノゾミが持ってきたお菓子は、おれも驚くくらいあまりにも完璧すぎた。
 それが、こういうことだったのか。

 ノゾミは歯を食いしばり耐えている。
 でも俺にはどうしても何かが引っかかった。

 そこにまだノゾミを信じてやりたいという気持ちがあり、ノゾミから本当の事を聞くまでは確定すべきではないと判断した。

 とにかくここは、この黒木から離れるべきだ。
 この女は、ノゾミが気に入らないに過ぎない。
 友達であれば告げ口などしないはずだ。

 そういう黒木の腹黒い所は、嫌な女に見えてならなかった。こうなると名前からしてその腹黒さが一層黒く思える。

 俺はこいつに嫌悪感を抱いた。

「ねぇ、天見先輩。叶谷さんって狡いですよね」
「いや、俺にはあんたの方が狡く思える」

 俺が冷たい視線を返すと、黒木の自信溢れた態度が一瞬で萎えいだ。
 黒木が怯んだ隙に、俺はノゾミの腕を取り引っ張る。

「帰るぞ」
 ノゾミは慌てて鞄を手にし、俺に引きずられるままにヨタヨタとしていた。
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