先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 お姉ちゃん?
 この女性はノゾミの姉。

 だが、ノゾミとは全然似てない。
 というより、均整のとれた派手な顔、スタイルの良さ、そこにメリハリもあって、女性らしくとても様になっている。

 そしてはきはきとした積極さが、消極的なノゾミとは全く正反対だった。

「まさか、ノゾミにこんなカッコいい彼氏がいるなんて、思わないじゃん。なんか悔しい。ねえ、君、ノゾミのどこがいいの? 私の方が魅力的だと思わない?」

 色っぽさを強調して、ノゾミの姉が近づいて来た。
 俺は思わずのけぞってしまう。

「お姉ちゃん、止めて……」
 ノゾミが姉の服を引っ張って懇願すると、姉は露骨に嫌な顔をした。

「生意気になっちゃって。まあ、いいけどね。ノゾミも成長したってことね。アマミ君っていったっけ? ノゾミをよろしくね。この子、ちょっと気弱で頼りないし、一緒に居るとイライラするでしょ」

「でも、俺には面白くて、興味が湧きます」
「ふーん、蓼食う虫も好き好きね」

「お姉ちゃん、先輩に失礼な事言わないで」
 ノゾミが必死に抵抗するも、姉は鼻で笑っていた。

 それにしても、年齢がかなり離れているような気がした。

「ノゾミはいいわね。優しいお父さんとお母さんに愛されて、そしてこんなカッコいい彼氏までできて。私なんかと違ってあー羨ましい」

 厭味ったらしい言葉だが、俺には違和感だった。
 ノゾミはぐっとこらえるように、潤った目を姉に向けている。

「お姉ちゃん、一体ここで何してるの?」
「ちょっと嫌な事があって、急に甘いもの食べたくなったの。それじゃ私帰るね。アマミ君、お会いできて光栄だったわ」

 姉はヒールを地面にカツカツとぶつけ、厳つく歩いて行った。
 その時ノゾミは姉の後姿を見つめ、何か言いたげにもじもじと落ち着かなさそうにしていた。
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