先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 廊下を真っ直ぐ突き抜けるとダイニングキッチンとリビングルームが一緒になり広々している。

 テレビも大きく、その前にはソファーもあり、家具も深みのある色で統一され、つややかに光っていた。

 だが、あまりにもきちんと整い過ぎて余計な物がなく、生活している気配が感じられない。

 家の様子に驚いている俺のために、セイは家の中を全て案内する。
 ベッドルームが二つ。

 一つはセイの部屋で、多少散らかっているが、置いてる家具はここも統一感があっていいものだった。

 もう一つは当然親の寝室だと思ったが、家具が揃えられて見た目は良くとも、使用している様子が感じられない。

 トイレ、浴室は掃除が行き届き、とてもきれいにしてあった。

 リビングの掃出し窓から通じる広めのベランダは、街のいい眺めが見渡せ、ここがかなり高い場所であるのがよくわかる。

 外を見つめていると吸い込まれていきそうにちょっと身震いするくらいだった。

「とてもいいところに住んでるんだね」

 ノゾミも違和感があるだろうけど、場所的には申し分ないから、礼儀として褒めていた。
 一通り案内された後、ダイニングテーブルに集まり、そこで勉強をすることにした。

「なんか飲む?」
 セイはキッチンに入り訊いた。

 そこはオーブンまで備え付けられ、カウンタートップも大理石になっていて、まるでレストランが始められそうな本格的な厨房だった。

 冷蔵庫から色々とペットボトルを取り出し、俺たちの前に見せ、俺もノゾミも一つ貰う事にした。
 セイから手渡されたペットボトルを、礼を言って受け取り、俺たちは長方形のテーブルに着いた。
 俺とノゾミが向かい合い、セイは主(あるじ)に相応しく議長席のように一番端に座った。

「さっき仮住まいっていったけど、どういうことだ」
 俺は鞄から本や筆記用具を取り出して、何気に訊いた。

「ここは、勝手に父が買った場所で、資産の一つみたいなもの。それを俺が借りてるって訳」
「家を複数持つのも驚くけど、セイは一人でここで住んでるのか?」

「そういう事になるけど、毎日お手伝いさんが来て食事の支度や身の回りの世話はやってもらってる。様子を見にたまに母もくるけど、気が散るからあまり来るなっていってる」
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