先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「嶺はいいよな。勉強が得意で」
「なんでそこで俺にくるんだ。それは自分の問題だろ。これだけ必要な物がそろってるんだから、塾に行くなり、家庭教師を雇えばよかったんだよ」

「それをしてやっとこの状態なんだ。これ以上がどうしてもダメなんだ。やればやるほど行き詰って、気が付いたらすでに中学三年だ。もう後にはひけないとこまで来てしまった」
「そんなに悲観になるな。とにかく中間テストで点数を上げたら、それは報われるのか?」

「ああ、次の中間でぐっと伸びたら、まだ特別進学コースに行ける可能性がある」
「よし、とりあえず、効率よく勉強をするコツから始めよう。理論が分からずに覚え込もうとしてるのが捗らない原因だ。とにかくこのゴールデンウィークは俺についてくると約束するか」

「わかった。約束する」
「勉強するのは俺がここにいる時だけじゃないぞ。俺が帰ってからもやる事は指示するからな。寝る時間なんてないと思えよ」
「うん」

 セイはごくりと唾を飲み込むように、真剣な眼差しを俺に向けた。
 それから俺たちは、共に戦うように我武者羅になりだした。

 ノゾミは俺たちの邪魔をしたくないと、リビングルームのソファーに移動した。
 セイは俺に焚き付けられ、本気で食らいついてくる。
 俺が多少厳しく指導しても、文句をいう事はなかった。

 昼を過ぎた頃になると、壁に備え付けられたモニター電話から呼び出し音が聞こえてきた。
 セイが立ち上がり、それに応対する。

 俺はその間にぬるくなってしまったペットボトルを手にして、口を潤わした。
 セイは今のところ、従順に俺の教えに従っていた。
 間違えば、俺は気を遣うことなく、

「バーカ、それ違うだろ。さっき教えた通りにやってみろ」
 普段通りに口をきいてしまう。
 セイも最初はムカッとしていたが、負けたくない気持ちでムキになり根性で正解を求める。

「そうだ、それでいい。やればできるじゃないか」
 もちろん褒める事も忘れない。
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