先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 俺の指導が正しいやり方だとは思わないが、俺が遠慮なくズカズカとセイの領域に踏み込めば、セイもまた自分をさらけ出したまま本音でぶつかってくる。

 それがセイには気が楽だったのか、間違えてきつく言われても、次第に自分で笑って受け流せる程、リラックスしてやっていた。

 モニターの受話器を置いた後、セイが言った。
「昼飯が届いたみたいだ」
 昼飯という言葉を聞くと、妙に腹が減ってきた。
 そういえば、昼食はセイが用意してくれる事になっていた。

 何が届くのか聞く前に、玄関のドアベルが鳴った。
 セイが玄関先で対応し、話し声が聞こえ、そしてセイは誰かを連れてダイニングへとやってきた。

 両手に荷物を下げた自分の母親よりも年配の女性が、俺たちを見ると頭を下げて挨拶する。
 俺もノゾミも立ち上がりお辞儀を返した。

「家政婦の戸倉蕗江(とくらふきえ)さん。俺の身の回りの世話をしてくれてる人」
「どうも初めまして。今すぐお昼ご飯の用意をしますので、少々お待ちください」

 小柄で、それでいて、少しふくよかでもある戸倉は、いかにも家庭の主婦らしく家事がベテランにこなせそうに見えた。

 荷物をカウンターに置くと、さっとエプロンをして、手慣れた様子でテキパキと台所で動き出した。
 セイはまた席につき、やり残していた問題を解き始める。
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