僕の知らない、いつかの君へ


久しぶりの実家はなんとなく気恥ずかしいような変な感じがした。
しかも、森田と一緒に来ているから余計に。

実家に電話をかけ、姉貴の在宅を確認してすぐ、森田と一緒に車に乗ってマンション前までやって来た。

「昔、おまえに夜中呼び出されてチャリでここまで来たよなぁ」

なつかしいな、と森田が言った。

マンションのエントランスを抜け、森田と一緒にエレベーターに乗る。

「俺はほんまに、お前の兄貴になりたいと思ってるで」

まるで、決意表明みたいにそう言った森田の横顔は、昔よりも数倍逞しかった。

一緒に実家の部屋の前に立つ。

玄関のチャイムは俺が鳴らした。

ドアがゆっくりと開き、驚いて思いきり目を見開いた姉貴を目の前に、森田は言った。


「美貴ちゃん、俺と結婚してください。まだまだこれからで、苦労かけるかもしれんけど、でも、絶対に幸せにする」

姉貴はハッと口元を手でおさえて、その見開いた目からぼろぼろと、もうそれは、大粒の涙をこれでもかと流しながら言った。

「……ばっかじゃないの……嫌に決まってるじゃない……」

森田はあはっと照れたように笑ったあと、涙でびしょ濡れの姉貴を力強く抱きしめた。

姉貴を抱きしめた森田と目があうと、森田はウインクをして見せる。

「お前もさっさとかっさらってこい!」

そう、言われたような気がして。
森田がくれたチケットを握りしめ、俺は全速力で走り出した。


『菜々子へ

読んでもらえるかどうかわからないけれど、手紙を書きます。
これから君に、会いに行きます。
返事はいりません。
知ってるよな?俺はこういうのが好きだって。
もう、逃がしたりはしません。
まだ知らない君をもっと見てみたいから。

追伸
実は俺も君に隠していたことがあります。
会ってくれたら、そのときに話すよ。

慶太』





《完》



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