【完】DROP(ドロップ)



頭の中が真っ白。



その言葉は、今のあたしにピッタリ。



ふわふわと緩やかにウェーブした柔らかそうな髪。

有り得ないくらいに細い腰。

長い足は、スキニーがよく似合ってる。

透き通るくらいに白い肌が脳裏に焼きついた。



周りを気にしながらも、エレベーターへと乗り込んで行くのを静かに見届けハッとした。



エレベーターは、どんどん上の階を指す。



――チンッ

上でエレベーターが止まった音が小さく聞こえた。



圭矢の部屋の階。



今まで光っていた上へ進んでいる事を示す矢印は、光を消し黒くなった。



一体、どれくらい見ていたんだろう。



「……嘘」



その言葉が出てくるまで、あたしは本当に何も考えていなかった。



鼻の奥が急にツーンとして。
目頭が熱くなる。


どんどん滲む視界に、あぁ……あたし泣きそうなんだ。って気がついた。



お尻のポケットに入れた携帯のバイブが振動する。



「はい」



エレベーターを見つめたまま、静かに出た。



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