跳んで気になる恋の虫


『虫は、恋をするために生きているんですよ』

虫屋の言った言葉が思い出される。

この広い世界の中で、同じ種類のメスを見つけるのってすごく大変なことだから、セミのように大きな声で鳴けるすごい発声装置を持つ虫が現れたり、高く飛んだり遠くまで飛べたり、独特の匂いを出したりと、みんな必死に恋してるんだって。


私は、たくさんの虫に勇気をもらって、自分の思いを伝えようと口を開いた。

「虫の声、聞こえるね。みんな恋してるのかな」

私は、その場に屈んで虫の声を近くで聞こうと耳を傾ける。

「あ、メガネ、あったよ」

体を低くしたせいで、草むらに落ちていたメガネを見つけることができた。

「鳴いているのは、ほぼオスですから。一生懸命、メスを呼んでいます。会えるまでひたすら頑張ります」

私がメガネを差し出すと、虫屋はそれを受け取りながらその場に屈んで、虫の声に耳を傾ける。


「オスの声を聴いているとき、メスは何をしてるの?」

「気に入れば、黙ってそばに近づきます。ほら、あのコオロギ見てください」

虫屋が指差す先に、2匹のコオロギの姿が見える。







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