跳んで気になる恋の虫
誰かに合わせて、自分をおさえていれば、傷は浅く、苦しむこともない。
でもそれじゃ、何のために生きているのかわからない。
本気で頑張れば、負けたら悔しいし、心に深い傷を負うことだってあるだろう。
それでも、好きなことはとことんやって、後悔のないように生きていきたい。
自分はこれが好きだと、胸を張って言えるような生き方をしたいと、虫屋に出会って思った。
私は、みんなに向かって話を続ける。
「あのね、それからもう一つ、高跳びのほかに、好きだから精一杯頑張りたいことができたの……私ね……」
「あ、あーー、ちょっと待った」
私が言おうとした瞬間、沙知が遮る。
「それを先に言う相手は、私らじゃないでしょ」
「沙知……」
「虫屋、無理とかオタクとかいろいろ言っちゃってほんとごめん。じゃ、私らは一足先に帰るから、ナミをちゃんと送ってあげてね」
沙知はみんなを引き連れ、この場から去っていった。
ありがとう。
沙知の優しさは、いつもさりげない。
静かになった林の中で、虫たちの声が響き始める。
この声は、好きな人を呼ぶ声なんだって、虫屋から聞いた。