我喜歡你〜君が好き〜
3度目のくしゃみをした時、ジャーハオは風邪をひいてしまいそうな予感に肩を震わせた。

こんなことが原因で体調を崩すわけにはいかない。早々に帰ろう。とコーヒーを飲もうと手を伸ばしたところで、目の前にきちんと畳まれたブランケットが差し出された。

突然のことに驚いて見上げると、立つていたのはスーツ姿の女だった。
猫の様な大きな瞳に綺麗な肌。顎のラインで切りそろえられた髪は風になびいてサラサラと音を立てる。

…さっきそこで本を読んでいた女だ。

始めに見たときはなんの興味もわかず、逆に嫌悪さえ感じていたが…
ゆるく口角を上げた女を見て、なぜか興味を惹かれた。

「ここのお店のですが良ければどうぞ。風邪ひきますよ。」

抑揚を感じさせない、少しぶっきらぼうな言い方だったが、女から媚びられることに慣れているジャーハオには好感が持てた。

久しく感じたことのない感覚にしばし呆然としたがハッとして女に答えた。

「ご厚意には感謝するが、これでは君が寒いのでは?」
「私はもう帰るので、ご心配なく。春の様はまだ冷えます。ご自愛くださいね。」

軽く頭を下げて、すぐに踵を返して店を出て行った女にジャーハオは何も声をかけることができずただその華奢な背中を見送った。

ジャスミンの様な彼女の残り香がジャーハオの鼻腔を抜けていく。

氷の様に温度を感じなくなっていたジャーハオの心にジワリと熱が灯った。

どこか懐かしい様な、温かい様な。久しく忘れていた感覚に戸惑いながらも、決して嫌ではなく。
むしろ嬉しささえ感じて無意識に口角が上がってしまう。

なんていう名前だろうか?
スーツ姿ということはこの近くに勤めているのか?
どんな本を読んでいた?
ああ…もっと彼女と話していれば…。

そこまで考えてジャーハオは自分の変わり様に思わず声を出して笑ってしまった。

参った…。

あれほど女を毛嫌いしていたのに。
女への興味は遥か昔に消え失せたと思ったのに…。名前もしらない。初対面の彼女が、出会って数秒で…これほどまでに自分を変えてしまうとは。

…彼女と…また会いたい。

今夜これきりの関係で終わらせるには、自分は彼女に興味を持ちすぎた。次はいつ会えるだろうか?
スケジュールを調整しなくては…。

凪沙への突然降って湧いた興味を自覚したシャーハオはカフェテリアを後にする。

歩きながら今後の自分のスケジュールを思い出していた。

なんとかもう一度
彼女に会いたい…。

いや
会わなくてはいけない。

なぜかそんな気がしていた。
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