寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


「クラリーチェには、女王なんて無理です」

 いよいよ涙声になったサーヤが、絞り出すような声でジェラルドに訴えた。
 ジェラルドも同じ想いなのか、サーヤの言葉に頷き大きく息を吐いた。

「体が弱いクラリーチェが女王になるということは、あの子の寿命を縮めるということです。今でさえ城から外に出ることはめったになく、床に臥せることが多いというのに……」
「サーヤ、泣かなくていい。私もそのことはよくわかっている」

 ジェラルドの言葉に、サーヤは顔を上げた。
「だったら、あの子が女王にならなくてもいいように諸侯たちを説得していただけますか」
「いや、それは無理だろう。ランナケルドが守り続けている慣例を簡単に変えることはできない」
「ですが、クラリーチェには、無理です。あなたは、大切な娘を苦しめたいのですか」

 ジェラルドを責めるような鋭い声に、セレナは胸が痛くなる。
 幼少の頃から父と母のクラリーチェへの過度な愛情には慣れていたが、ここまで感情的になる姿を見るのは初めてだ。
 娘を猫かわいがりする、甘すぎる親だとしか思っていなかったが、人前では本来の姿を隠していたのかもしれない。
 セレナが部屋にいることに気づかず会話を続けるふたりに声をかけるタイミングを逸したと感じ、セレナはこのまま部屋を出ようと、ドアに向けて足を動かした。
 城下に行くことはあらかじめ伝えてあるし、黙って出かけよう。
 そう思いながらそっと足を進めていると。

「クラリーチェとセレナが逆なら良かったのに……」

 ひくひくとしゃくりあげながら呟くサーヤの声が聞こえた。
 その言葉に、セレナは思わず足を止めた。

「そうよ。女王になる必要のないセレナがあれほど元気だなんて……騎士たちに交じて剣の練習はするし狩猟にも出かけて。最近では早馬を乗りこなしていると聞くし。その元気をクラリーチェに分けてほしいわ」

 感情的になっているのか、大きな声が部屋中に響く。
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