寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 市の初日が無事に終わった。
 セレナは日暮れ近くまでたくさんの露店を見て回った。

「お姉様に頼まれた絵の具も買えたし、城のみんなが楽しみにしてるお菓子もたくさん手にいれたし。楽しかった」
「疲れてないのか? こっちに移ってもいいぞ? セレナの馬くらい、騎士の誰かに連れて帰らせる」
「え? あれくらいで疲れるわけありません」

 愛馬に揺られながら、セレナはバカにするなとばかりに声を荒げた。
 半日市を楽しんだくらいで馬にも乗れなくなる程度の体力だと思われていたのかと口を尖らせる。
 王城への帰路、ミノワスターの騎士たちに続きテオとセレナが並んで馬を走らせている。
 ふたりの後ろには、ミケーレを先頭に、セレナの警護を担当している騎士たちが続いている。
 次第に暗くなる日暮れの町を抜け、そろそろ王城に着く。
 肌をかすめる風は柔らかく、セレナは心地よい揺れに身を任せていた。
 市ではたくさんの人から声をかけられ、あらゆる店を回っては笑顔を振りまいていたセレナ。
 疲れているなら自分の馬に乗せて城まで帰ってやろうと思ったテオだが、負けず嫌いのセレナを怒らせただけのようだ。

「楽しめたのか?」

 やれやれとばかりに、セレナの機嫌をとるように、問いかける。

「今までで一番楽しかった。アメリアのお店の料理もおいしかったし、施設の子供たちと遊んだし。それに、たくさん布を手に入れたし。あ、いろいろ買ってくれてありがとう」

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