寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 ゆっくりと馬を走らせながら、セレナはテオに向かって軽く頭を下げた。
 そして、前方を走る馬に積んである包みをうれしそうに見る。
 そこにはアデリーヌの店で買った布が入っているのだ。
 店に並んでいたものはどれも質の良い物ばかりで、セレナはどれを買うかかなり悩んだ。
 家で過ごすことの多いクラリーチェのために手触りのいい布で作ったクッションを作ってあげようと思っていたのだが、目の前に並ぶたくさんの生地の中からひとつを選ぶのは難しかった。
 結局、ミノワスターの職人が丁寧に染めあげた明るいオレンジ色の生地に決めた。
 周囲をサテンのリボンで装飾し、中にはふわふわの綿を詰める予定だ。
 他にも施設の子供たちに料理を教える時に使う子供用のエプロンの材料や、結婚が決まった侍女にプレゼントするベールのためのレースなどを買い、セレナとアメリアの趣味である刺繍に使う材料も手に入れた。
 セレナは少しずつ貯めたお金でそれらを買おうと思っていたが、有無を言わさぬ強引さで、テオが代金を払ってくれた。
 それは困るとセレナは必死で断ったのだが、アデリーヌも「テオ王子に払ってもらえばいいんですよ」と言って、さっさとテオからお金を受け取っていた。
 かなりの金額になるせいか、すぐさまそのお金は店を警備している騎士に預けられた。
 そうなればセレナは引き下がるしかなく、何度も礼を言った。

「いいんだよ。騎士団にいた頃に蓄えた金を使う暇もなく王子をやってるからな。たまにはセレナの喜ぶ顔を見るために使っても、誰も文句は言わないだろ」

 大したことなどないように、テオはそう言って笑う。
 セレナは再びお礼を言おうと口を開いたが、何も言わないまま閉じた。

『セレナの喜ぶ顔を見るために』

 頭の中を、その言葉が繰り返される。
 まるでセレナを愛しく思っているような言葉をさらりと口にしたテオを見れば、平然としている横顔が目に入る。
 セレナは火照った頬を見られたくなくて、馬の腹を軽く蹴った。
 テオよりもほんの少し先を走り、赤いに違いない顔を隠すように城に向かった。

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