エリート上司の過保護な独占愛
「紗衣、これはこっちの荷物と一緒でいいのか?」

「あ、はい。あ、裕貴さん。そこは自分でやりますからっ」

 紗衣の部屋は引っ越しの準備で、ダンボールでいっぱいになっていた。

 プライベートでは呼び方が“課長”から“裕貴さん”に代わったころ、紗衣の両親に挨拶に行ったふたりは、一緒に暮らすべく荷造りをしていた。

「しっかし、荷物多いな」

 部屋を見渡しながら、裕貴は少し呆れた様子だ。

「裕貴さんの部屋に入りますかね?」

「ん~、広い部屋を借りるつもりだけど、向こうで買ったほうがいいものも多いな。送料の方が高くつきそうだ」

「えっ? 新しい部屋借りるんですか?」

 そんな話は初耳だ。裕貴の部屋に引っ越しするつもりだった紗衣は驚いて確認する。「正確には借りたっていうか、会社が用意してくれる。ドイツに」

「そうなんですね、ドイツ……え? ドイツ?」

「そう。昨日辞令が降りた。半年後からドイツ支社に勤務だ」

「う、嘘……そんなの聞いてないです」

 慌てた紗衣は、手に持っていた本を落としてしまう。

「あぁ、まだ言ってないからな。でも本当だ」

 裕貴が本を拾い、それを紗衣に渡しながら尋ねた。
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