エリート上司の過保護な独占愛
絵美を見送った後藤本の「行きましょうか」という声で、また駅に向かって歩き始めた。そのときに気になったことを尋ねてみる。

「少し窺ってもいいですか?」

「ん? 何?」

 藤本は笑顔のまま、沙衣の方を見た。ゆっくりと歩きながら話をする。
「さっき話をしていたユニヴェールの話ですが、部外者に話すのはあまりよくないことだとわかっているんですけど、気になってしまって」

「あぁ、そうね。まぁでも、担当の大迫さんには、発注が減っているから申し訳なくて、話はしてあるの。デザイナーが部下を連れて他社に移ってしまってね。突然だったから、新しいデザイナーを引っ張ってくるにも、育てるにも時間がなかったのよ。それで今の有様。このままだと、デザイナーが見つかったころにはうちの会社はないかもれないわね」

「そんな……」

 沙衣は眉尻を下げた。その様子を見た藤本が慌てて言葉を続ける。

「心配しないで、大袈裟に言っただけよ。本当はそこまでひどくない。ちょっと愚痴りたくなっただけ」

 その言葉に胸をなでおろす。懇意にしている取引先には沙衣自身色々な思い入れがある。とくに藤本には新人時代にしたミスを「いいよ。いいよ」と許してもらい、その後も「頑張ってる?」と声をかけていただいた。

 彼女のような取引先の温かい言葉が、社会人としての沙衣を成長させてくれた。沙衣にとっては大切な人たちだ。
 
 だからこそ、外部の人間だとしても気になってしまう。

「いい方向に向かうといいですね」

「うん。ごめんね、何か心配かけちゃって。次はいつ料理教室来るの? 私も同じ曜日に通うようにしようかな?」

「そうしてください。またぜひご一緒しましょう」

 そんな会話をしながら、ふたりは駅に向かった。
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