エリート上司の過保護な独占愛
 藤本と別れて電車に乗り、自宅のある駅に到着して、商店街を抜けたところにある一件の喫茶店が目に入る。そろそろ店じまいの時間なのだが、まだ「close」のパネルが出ていない。店内を覗くとまだ灯りがともったままだ。

 ドアを開けると昔ながらの〝カランコロン〟というベルの音とともに「いらっしゃいませ」という声が聞こえてきた。

「あの、いいですか?」

「あら、沙衣ちゃん。久しぶりね、どうぞどうぞ」

 すぐにカウンターに水とおしぼりが用意された。ここ〝カサブランカ〟で沙衣がいつも座る席だ。

「あの、ロイヤルミルクティーを……」

「はいはい。奥さんの出番ですかね」

 ここはマスターとその奥様のふたりでやっている、カウンターとテーブル席がふたつの小さな喫茶店だった。

 しかしマスターのコーヒーの腕は確かで、サイフォンで一杯ずつ丁寧に入れてくれる。常連客も多く満席のときもある。

 沙衣はコーヒーも好きだったのだが、ある日奥様が入れてくれたロイヤルミルクティーのファンになってしまい、そればかりを注文していた

 しばらくして奥さんが顔を出すと同時に、紅茶のよい香りが鼻をくすぐる。「どうぞ」と言ってカウンターに差し出されると、まってましたとばかりにカップを手にして口へ運ぶ。

 そんな様子を見たマスターが「一応うちの〝売り〟はコーヒーなんだけどな」とぽそっと呟いた。


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