エリート上司の過保護な独占愛
 三軒目で軽い食事を終わらせた。その場で色々相談してもよかったのだが、少し歩こうという話になって店を出た。

 少し肌寒い。バッグからストールを取り出して身に着けた。

「寒い? どこかに入って話をするか?」

 本来ならそのほうがいいのかもしれない。しかし今日は三軒もカフェやレストランを回り、正直お腹がいっぱいだ。店に入れば注文しないわけにもいかない。

「い、もしよければこのまま少し歩きながら話をしませんか?」

「そうだな。本城がそれでいいならそうしよう」

 今日は何度もこうやって意見を聞いてくれた。なかなか自己主張ができない沙衣を気遣ってくれていた。裕貴にとってはなんてことないことかもしれないが、紗衣にとっては、今日一日が特別な日だった。

「で、本城はどこの店がよかった?」

 三軒とも、日程やフロアの広さなど一定の条件は満たしている。後は、こまごました違いを検討する。

「私は、二軒目のお店がいいと思います」

「そう? 三軒目も悪くないと思ったんだけど」

「そうですね。確かにフロアも全体を見渡せますし、お料理もおいしかったです。でも、実は化粧室が狭くて……。当日は混み合うだろうしそこが少し気になって」

「あぁ、そうか。そこまでは見てなかったな」

 歩きながら裕貴が納得したようにうなずいた。

「店は二軒目にしよう。きっと三谷たちも喜ぶぞ」

「はい」

 お互い笑顔で笑い合う。今日一日で何度もそんなことがあった。

 緊張してどうしようもなかった。それでも一緒に過ごすうちに、楽しさが勝っていく。他愛のない会話も、ちょっとした気遣いも……〝好き〟という気持ちをどんどん加速させていった。

 人混みの中、裕貴の隣を歩きながら自然と笑顔になる。

 駅の改札まで送ってくれた裕貴を、紗衣は二度ほど振り返る。そんな紗衣を裕貴は彼女が見えなくなるまで見送ったのだった。

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