御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

それを聞いて、白臣は目をパチパチさせた後、どこか楽しそうに目を細めた。

「そんな風に思ってる後輩に、一瞬でも大事な彼女を預けちゃうんですか?」
「――」

今度は始が目を丸くする番だった。
完全にふいうちをくらった顔をしている。

そんな始を見て、早穂子の胸にもさまざまな感情が押し寄せて来る。

たとえばそれは恋をする上でのスパイスという、始の恋人ごっこ遊びに対するほほえましい感情だったり、夢を夢だと突きつけられた時、自分はどうやってそれを受け止めたらいいのかというような不安だ。

とにかく始はつかみどころがない。

甘い言葉をささやき、大事にしてくれているのに、彼の本心は別にあるのではないかと思ってしまう、そんな不安定さが彼にはある。

(大丈夫……私は、わかってる。ちゃんと……自覚してる……)

それでも自分は自分の恋を、彼の側にいたいと思う感情を選んでここにいる。

早穂子はそう自分に言い聞かせながら、笑顔を浮かべた。

「そうは言っても、心の中では槇さんをとても信頼されてるんでしょう」

それを聞いた白臣はクスッと笑って、
「危なっかしいなぁ……」
と、自分の肩をつかんでいる始の手をトントンと叩くと、テーブルの上のグラスを持って立ち上がった。

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