御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
始の優しい言葉は、同時に柔らかい“拒絶”でもあった。
自分の内面に踏み込まれることへの、始の拒絶。
押し入ってくれるなという本心を、甘い言葉でやわらかく包み込んで、彼は早穂子を拒否しているのだ。
「始さん」
「ん?」
不穏な空気は間違いなくここに立ち込めているのに、始はそれに気が付かないふりをする。
相変らず天才的な勘の鋭さだ。
(だったら私も、そうしたほうがいいのかな……)
始は早穂子が望めば、いくらだって甘い言葉と安心をくれるだろう。
母によって傷つけられた自尊心をすぐに回復できるように、真綿に包むような優しさで癒してくれるだろう。
そうしたらまた今まで通り、表面上は甘く優しい、ぬるま湯のような関係を続けられるかもしれない。
(そのほうがいいよね……。始さんだってそれを望んでいるんだから……)
早穂子はそう思いながら、始を見あげた。
緩いくせっ毛の奥から、彼のくっきりした二重まぶたの澄んだ瞳が見える。
彼は早穂子にとって完璧な王子様。
お姫様気分でいたい女の子を、永遠に夢を見せることが出来る。
そんな人――。