御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

「そうなんだ……えらいわ……すっごくえらい」

早穂子は何度もつぶやく。

ゆずは営業職で、ほぼ社外に出ているはずだ。
なのに社内でもちょっとしたエクササイズをするなんて、デスク仕事のくせして、現状まったく運動する気がない早穂子からしたら、あまりにもまぶしすぎる。

「最近気を付けているだけだって」

早穂子からの尊敬の眼差しを受けて、ゆずは照れたように微笑んだ後、「あ」と目を丸くした。

「どうしたの?」

なにか忘れ物でもしたのかと首をかしげると、

「副社長だ。めずらしー。今日、社内にいたんだね」

と、早穂子の背後を指さした。

「え?」

彼女の言葉に、早穂子の心臓はどきんと音を立てて跳ねる。

急いでエレベーターを振り返ると、そこに濃紺のスーツ姿の始がひとりで立っていた。

(始さん……!)

エレベーターから降りて、ただスマホの画面を眺めているだけなのに、そこだけスポットライトが当たっているような、おしゃれCMのようにきまっている。

惚れた弱みだけではないだろう、やはり彼には華がある。どこにいても他人の目を引く男なのだ。
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