御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
念のため始とのやり取りを再確認すると、早穂子が送ったメッセージには既読がついている。
だがそれだけだ。
その瞬間、早穂子の胸がちくっと痛む。同時に少しだけ寂しい気持ちになった。
おそらく始が、もう少し残念なそぶりを見せてくれるのではないかと、どこかで期待していたのかもしれない。
(私ったら、勝手に期待して、落ち込んで。女々しいな……)
早穂子は自分の醜い感情を押し込めるように、スマホをバッグの奥に仕舞いこむ。
エントランスには歓談スペースがあり、社員も自由に使っていいことになっているので、ソファーの端っこに座ってゆずを待つことにした。
仕事を終えて、ぞくぞくと社員が出てくるエレベーターの扉をぼんやりと眺めていると、背後から、
「お待たせえ!」
と、元気な声が響く。
「ひゃっ!」
驚いて振り返ると、そこには軽く息があがったゆずがニコニコして立っていた。
エレベーターを眺めている早穂子を驚かすために、背後にまわったわけではないだろう。
「えっと……もしかして、階段使ってるの?」
「うん。ひとりだったら階段を使うようにはしてるよ。ちょっとしたエクササイズのつもり」
ゆずはぱしん、と自分の太ももを手のひらで叩いて、胸を張った。