御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
早穂子はできるだけ優しい声で、始に声をかける。
「もう、ふたりで会うのはやめましょう」
思っていたよりずっと簡単に、するりと口を突いて出た。
その瞬間、始はビクッと体を震わせて、顔を上げる。
眉が下がっていて、唇が震えている。
まるで雨に打たれた迷子の犬のような様子に、早穂子の胸はまた切なくなった。
思わず手を伸ばし、彼のきれいな額に散る、くせっ毛を手のひらでかき上げる。
だが、今の早穂子にできることは、始を自由にしてあげることだけだ。
一度こうだと決めて、腹をくくったらもう迷わない。
早穂子はベッドから立ち上がって、バッグの中から鍵を取り出して、テーブルの上に置く。
「鍵はポストに入れておいてください」
そして財布だけ持って、そのまま玄関へと直行する。
「早穂子……」
始の声は確かに早穂子に届いたが、足を止めることはしなかった。